推しに認知されたくない話
私は推しに認知されたくない。
推しに限らず私が憧憬を寄せる対象の全般においてそう思う。
名も無きファンでいたい。
私がそう思うようになったのはとあるゲームの生配信を見ている時だった。
コメントを拾いながら雑談し、ただひたすらゲームをする顔出し生配信。
コメントはすべて拾うわけではないしスパチャされても絶対に読み上げるとは限らない。ファンに対して塩対応というか、本当に心の底から媚びるつもりが一切ない配信者だった。
「スパチャしたからって読んでもらえると思うな」
「お前らコメント欄で馴れ合いすんな」
そういうスタンスの配信者で、視聴者もそういうところが好きな女かひねくれている男しかいなかった。
女の視聴者の中にはリアコもちらほらいて、配信者はそれに対しうっとおしがる様子もみせていた。
それも含めて通常運転なのでみんな好き勝手にコメントしていた。
かくいう私もそういう正直なところを「おもしれー男」と興味本位で見ていた。
ある配信中、一人の視聴者が「ひさびさに配信見た」とコメントした。
ただのなんてことないコメント、読み上げられたいとかそういう気持ちもなく流されるだろうと思っていたのだが
「『ひさびさに配信見た』......お前こないだも来てたから別にひさびさでもねえじゃん」
まさかそんな返しがあるとは思わなかった。
それに対し他の視聴者は「そんなんわかるの」「視聴者のこと覚えてるの」とざわざわしだした。
それに対し配信者は「よく来るやつは覚えてる」と答えた。
私はその配信者の生配信には4時間だろうが深夜までかかろうが貼りついてコメントをしていた。ずっとコメントしているので読み上げられることも何回かあった。
Twitterで呟いたらエゴサされていいねやリツイートされたり、リプしたらさらに返事がきたこともあった。
Youtube登録者数も1万人いかないくらいだったのでよくコメントする人、リプを送る人もある程度見知った人たちだった。コメント欄はよく来る8.9人くらいで回していた。
いままでさんざん絡みに行っていたが、認知されるとは露ほども考えていなかった。
しかし「よく来るやつは覚えてる」という発言で自意識かもしれないが「認知されてるんじゃないか」と思ってしまった。
別の日に、他のYoutuberとコラボ生配信があった。
私はどんなゲームだろうが誰とコラボしようが見に行きコメントしていたのでその配信も当然見に行った。
その中でコラボしているゲストの人に私のコメントが読まれ、私の推しがゲストに「こいつはずっといる」と私のことを話した。これは決定的だった。
その時は素直に「覚えてくれてたんだ、嬉しい~!」と思った。
しかししばらく経って、認知されたことを変に意識してしまったのだ。
私はあなたのファンだと覚えられた以上、迂闊に変なことを言えなくなってしまった
いままではコメントでオカマだったり幼女だったりと自由に遊んでいたのだが、前のブログで書いたような「人格が生まれた」感覚があった。
名無しがコテハンになった感じがしたのだ。
もちろんファンサをするような人でもないし自分がアイドル的な応援のされ方を嫌う人だ。私もアイドルとして見てはいないし推しという言葉はあまりしっくりきていない。(ただ認知という言葉を使う上で、推しと表現したほうがわかりやすいのでそう表記する。)
どちらかといえば会話できるラジオパーソナリティくらいの感覚で話していた。
認知されたからと言って対応が変わるわけでもない。私の意識が変わっただけだ。
その後から生配信の通知があっても見る気にはならず、自然とツイッターでも呟かなくなった。
そうしていると久しぶりに配信を見ても話題についていけず、しばらく見るつもりで開いても数分で画面を閉じることばかりだった。
でも相変わらず話やゲームは面白いのでコメントをせずに見てるだけだった。
そういったことがあり推しとの距離が近いSNSで、推しの話をなるべくしないようになった。興奮したときやあわよくば届いてほしいと思った時だけ、エゴサでひっかかりやすいように投稿した。
先日、私が好きな漫画のイラストがタイムラインに流れてきた。
あまりにも綺麗で最高すぎて、思わずリプしようかと思ったがなんだか身元がばれるのはなあとその絵師のプロフィールをみてみると、なんとマシュマロが開かれていた!
マシュマロはやったことないけれどあれだろ、匿名で感想言えるんだろ
その程度しか知らずマナーなんてもんがあるのか気にする余裕もなく、私はその絵師に思いの丈をぶつけたのだった。
マシュマロを投げた後しばらくメディア欄を見て、これは完全に好みの絵だ...と大興奮でフォローボタンを押した。
自分のホーム画面に戻った時、その絵師の新しい投稿が出てきた。
なんと5分前に投げたマシュマロの回答だった
さすがにこんなん恋に落ちてしまう。一瞬で推し絵師になってしまった。
以来その絵師がイラストを投稿すると私はマシュマロを投げるようになった。
匿名だからこその居心地のよさ。あと同一人物だとはばれていないのでまったくしつこく思われない。
マシュマロよ、使ったことなかったけどお前がオレの相棒だったんだな。
これで私は認知や気まずさから少し解放されたのだった。
創作活動する人は是非ともマシュマロの設置を検討してみていただきたい。
ちなみに似たような話で、よく行く店で常連扱いされたくないとも思っている。